エールホームクリニック

ドクターズコラム

ドクターズコラム特別編「新型コロナウイルスに関する知見」

2021年9月14日

いつの間にか、日中の蝉の鳴き声よりも夜の秋の虫達の涼やかな声が響くようになり、夏から秋へ移り変わりました。
コロナ禍となって、このような季節の移ろいを幾度経験したでしょうか。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)との闘いは続き、世界的な流行はおさまることがありません。

現時点で、世界の感染者数は2億人、死者数は450万人を超え、1日の感染者数は60万人、死者数は8000人と報告されています。
国内は、目下デルタ株の流行による第5波の中におり、今までの波に比べ最大数の感染者数・重傷者数を経験しています。
8月下旬、当院に発熱で訪れる患者さまの間でも、コロナ抗原検査陽性となることが増え、身近でのSARS-CoV-2感染流行を肌で感じました。
現在は少し落ち着き、クリニックにいると、地域の状況をリアルタイムに把握できるのだということを実感しています。

ただ、一見すると変わらないwithコロナの状態のようですが、SARS-CoV-2が絶え間なくスピーディーに変容していく一方で、季節の移ろいを受け身で感じるのとは異なり、私たちは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、能動的に変えていく手段を得てきています。
最近では、1つがワクチンの普及で、もう1つが新たな治療薬の登場・使用拡大です。そのようなこともあり、SARS-CoV-2やCOVID-19に関する最近の動向についてまとめてみました。

SARS-CoV-2は、ウイルス表面のスパイク(S)蛋白の一部を介して、鼻・喉などの細胞の表面にある受容体(ACE2受容体)からヒトの細胞に侵入して感染します。
変異は2週間に1回の頻度で起き、どこに変異が入るかはランダムですが、S 領域のアミノ酸に変異が入ると感染性が変化する可能性があります。その変化の結果、感染・増殖しやすいウイルスが生き残り、ウイルスの置き換わりが起きます。
現在流行している変異株の 1 つがデルタ株です。
デルタ株は、当初のウイルス株に比べ2-3倍の感染力があり、水痘-帯状疱疹ウイルスとほぼ同じ感染力と言われています(1人の感染者が何人に感染させるかという基本再生産数(R0);季節性インフルエンザ 1台、SARS-CoV-2従来型 2-3、デルタ株 5-9、麻疹 15)。
デルタ株が感染した人が排出するウイルス量は従来型の約 1,000 倍とも報告され、その感染力の強さから家庭内感染や職場・学校での感染拡大が今まで以上に起き、第5波の流行拡大へとつながっています。
また、入院率がアルファ株の約2倍との報告があり、病原性も高いと考えられます。

デルタ株はワクチン効果も減弱させます。
デルタ株に対するワクチン効果について、実験室での結果では、mRNAワクチンのデルタ株への中和活性は従来型に比べ約3分の1に低下していました。
一方、実臨床のデータでは、ファイザー社製mRNAワクチンの接種をいち早く進めたイスラエルからの報告によると、デルタ株の感染が拡大した6月以降も、接種時期が早いほどSARS-CoV-2感染予防効果やCOVID-19発症予防効果は減弱していましたが、COVID-19による入院や重症COVID-19を予防する効果はいずれの接種時期でも80%以上を維持していたとのことです。
実際、国内で、感染者・重症者・入院患者の内訳は、まだワクチン未接種の50歳台以下が多くを占めています。
一方で死亡数は以前よりも減っており、治療内容の進歩とともに高齢者へのワクチン普及効果と考えられます。

2021年1月にコロンビアで初めて発見され、南米で増加傾向にあるミュー株は、国内でも海外からの入国2症例の感染が報告されています。
こちらは抗体の攻撃から逃れる変異が入っており、ワクチンの有効性低下が懸念されていましたが、先日、ワクチンで得られるミュー株への中和活性が従来株の7分の1以下とのデータが発表されました。このような新たな変異株に対し、より有効性の得られるワクチンの開発や、ワクチン追加接種の効果などの検証が待たれます。
多くの病気への対応の原則は、予防と早期発見・早期診断・早期治療であり、COVID-19も同様です。
予防はワクチン普及以外、不織布マスクを適切に着用すること、換気で常に空気を入れ換えることも対策として有効です。
また、本年7月、発症早期の治療薬として抗体カクテル療法が特例承認されました。

デルタ株に感染してから症状が出るまでの期間は平均3-4日で、COVID-19発症後数日はウイルス増殖が起こりますが、その後ウイルス量は減ります。
その時点で、80%程度の患者さんは改善していきます。
一方、発症7日前後からは、感染されたヒトの免疫が引き起こす炎症反応が主になり、入院が必要となる中等症・重症の状態となる可能性が高くなります。
この経過に応じて、治療方法が変わります。
発症早期はウイルスをターゲットとした治療、発症7日前後以降は抗炎症薬の投与が要です。
今まで、国内でCOVID-19に対する適応薬剤は、レムデシビル、バリシチニブ、デキサメサゾン(重症感染症への適応)の3つで、これらは重症化フェーズでの治療薬でした。新たに使用可能となった抗体カクテル療法(一般名:カシリビマブ/イムデビマブ、商品名:ロナプリーブ)は、ウイルスの増殖を防ぎ、結果として重症化を抑制する効果があります。
カシリビマブ/イムデビマブはウイルスのスパイク蛋白に結合する2つの抗体製剤で、これらの抗体が結合したスパイク蛋白はヒトのACE2受容体へ結合できないため、SARS-CoV-2がヒトの細胞へ侵入し増殖することができなくなります。
重症化リスクを持つ軽症・中等症Iの患者さんが対象で、治験では70%以上の入院や重症化・死亡の抑制効果、症状改善までの期間短縮、ウイルス量減少効果が確認されました。
また実験室レベルで、デルタ株含む変異株への中和活性も確認されています。
安全性プロファイルも良好で、蛋白製剤で懸念されるInfusion reactionも0.2%と少数に認めたのみでした。
このような病気に関連したある標的に対する抗体製剤は、20年前に発売開始のB細胞性悪性リンパ腫へのリツキシマブから始まり、現在は関節リウマチを始めとした免疫疾患や多くのがん治療に広く使用されています。
抗体医薬品はすでに長い歴史があり、私たちも使い慣れ、安全面についての知識や対応のノウハウも得ています。
各地域に抗体治療センターが設置され、カシリビマブ/イムデビマブの外来投与が拡大されつつあります。
また皮下注射での使用も申請されており、製剤がスムーズに供給されることができれば、とても利便性高く、有効な、現状を打開できる治療薬であると期待します。
ちなみに、IL-6受容体への抗体製剤であるトシリズマブやサリムマブといったIL-6阻害薬は、国内では適応外ですが、WHOでは、重症COVID-19の死亡率を抑制する治療としてステロイドとの併用療法を推奨すると位置づけられています。
また、JAK阻害薬であるバリシチニブも、IL-6阻害薬とともに関節リウマチの治療薬であり、私にとってはとても馴染み深いものです。
バリシチニブは、よく知られたJanusキナーゼ 1/2 の阻害による抗炎症作用の他、Numb 関連キナーゼの阻害を通じてウイルスの感染性を弱め、ウイルスの侵入を減少させるという活性もあるようです。
現状のCOVID-19治療は、病態から治療を考える、ターゲットを定めて創薬するという近年の医療の治療の流れの上に成り立っているのです。
さらに、他社からも抗体製剤が開発・承認申請中ですし、ウイルスの増殖を防ぐ経口薬も各社で治験中です。
8割のCOVID-19患者さんは自然経過でよくなるのですから、治療対象の選択にあたっては重症化予測が大事です。
重症化する患者さんは発症初期から血清TARC値が低値であることが確認され、早期の1回の測定で重症化を予測できるマーカーとしてTARC が保険適用で測定できるようになりました。
また、東大病院は、人工知能(AI)を用いてCOVID-19患者の初診時の臨床情報から重症度を予測するアルゴリズムを開発したと発表しています。
実際にそれを入院調整に活用している自治体があり、東大病院は医療機関で利用できるサービスも提供しています。

人類は大昔から感染症と戦っており、天然痘・ペスト・スペインかぜなどのパンデミックを経験してきましたが、COVID-19の時代の私たちは今までよりずっと迅速に、理論的に戦う武器を得ています。

いち医療者として、その時々にできる最善のことをこれからも行っていきたいと考えます。

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