エールホームクリニック

「そうだ、学会行こう」

『食物アレルギーの発症予防』 第124回小児科学会 〜Dr.鈴木編〜

2021年6月1日

第124回小児科学会が4/16-18に国立京都国際会館で開催されました。感染拡大防止の為、多くのプログラムはインターネットで視聴が可能であり、4/30以降はオンデマンド配信が開始されています。会場に行って熱気を感じることができないのは残念である反面、興味のある講演や発表を好きな時間に聴講できるのはありがたいです。

医療に関する最近の話題として”食物アレルギーの発症予防”に関する講演を拝聴しました。
約20年前まではアレルギー予防のために未熟な腸に抗原を入れない方が良く、卵や牛乳は早期に始めないほうがよいとされていました。しかし、15年ほど前からは食物を摂取することがアレルギーの発症予防に繋がる可能性があり、早期に食べたほうがよいと方針が転換されています。
現在提唱されているのは「二重抗原暴露仮説」というものです。簡単に説明すると、荒れた皮膚から抗原が入り込めばアレルギーを発症し、抗原を口から食べるとアレルギーを予防するという考え方です。皮膚から抗原が入ってくることを経皮感作、口から食べることを経口免疫寛容と呼びます。
つまり現在は、①卵や小麦も早めに食べさせて経口免疫寛容を誘導する、②部屋の中をよく掃除し、皮膚をきれいにすることで経皮感作を避ける。この2つが食物アレルギーの発症予防になります。今回は最新のエビデンス(根拠)や実践方法について詳細に解説されていました。

まずは離乳食の指導方法について実践的な講義がありました。近年は生後5-6ヶ月頃から積極的にいろいろなものを食べるように学会から推奨されています。しかし、一般書店で購入できる2018年頃に出版された離乳食本では“生後5-6ヶ月頃の乳児に対して卵を与えないように”と書かれているそうです。普段は医学書と論文を中心に読んでいるので気が付きませんでしたが、離乳食について相談するときには無理のない範囲で早めに開始すること、昔の離乳食本を過信しないことをお伝えしていこうと思います。

次に部屋の中の抗原量に関する研究が複数紹介されました。印象に残ったのは「日本人の自宅においてベッドから卵の抗原が非常に多く検出される」ということです。多くの人は居間で食事をしているのでしょうが、部屋の至るところに抗原が広がっているのです。つまり、部屋をきれいにしていても環境中の抗原を完全に除去することは難しいということです。

抗原のない環境を作れなくても皮膚をきれいに保つことが経皮感作を避けることに繋がる可能性があります。そのため、「乳幼児期から保湿剤をこまめに塗ることでアトピー性皮膚炎の発症を予防し、ひいては食物アレルギーの発症も減らすことができるのではないか」という研究が現在も続けられているそうです。
まだ結論は出ていませんが、アレルギーの家族歴がある人に限れば予防効果があるかもしれないと言われています。また、皮膚をきれいにする事自体にデメリットはありません。乳幼児のスキンケアが大事であることに間違いはないので、皮膚科の先生とも協力して取り組んでいきたいと思います。

その他にもいくつかの講演を聴講しましたが、小児科学会の面白いところは小児に関わる様々な分野の講演があることです。最新の医療に関する話題も大切ですが、普段と違った視点からのお話を聞くのも新しい発見があります。少し医療から離れた話題として一般財団法人コミュニティフューチャーデザインの深谷先生の講演を拝聴しました。”伝わるように伝える”ということをテーマに、情報の扱い方・伝え方についてわかりやすく解説されていました。

特に印象的だったのは”情報は事実だけでは伝わらない”ということです。①事実(Content)が核になり、②編集や表現の工夫(Create)を経て、③なにかを媒介して発信される(Media) という3層構造になっているとのことでした。

つまり“伝える”ことは①自分の言いたいことを②分かりやすい言葉にして③適切な方法で発信することです。さらに“伝える”が終わった後、受けとってもらうことで”伝わる”ことになります。最近はnoteをはじめ、様々なMediaを通して発信することができますが、事実無根の発信も増えているようです。医療においてはまず事実(Content)が充実していないと良い情報にはなりません。常に知識をアップデートして、充実したContentを提供できるようにしていきたいと思います。

また、「伝える≠伝わる」ということは目の前の患者さんに対しても同じことが言えると感じました。普段の診察が患者さんの役に立つためには「お子さんとご家族に考えが伝わったか」が大切です。自分の勉強したことが、少しでも皆様に”伝わる”ように日常診療でも努めていきたいと思います。

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