診断について
あちこちの関節が腫れて痛い、手足が腫れぼったく力が入らない、朝起きたときにこわばりを感じる、などの症状が続いているようであれば、関節リウマチかもしれません。関節リウマチは、複数の関節に炎症(滑膜炎)が起き、その結果、関節の軟骨や骨が破壊され、関節の変形をきたしてしまう病気です。一般的には、両方の手首や指の付け根、手指第2関節や足趾の関節が腫れて痛くなることが多く、特に朝に症状を強く感じます。血液検査では、炎症の数値(CRP値、赤沈)が増えていたり、リウマトイド因子(RF)・抗CCP抗体が陽性となったりすることが多いですが、血液検査だけでは診断できません。症状の出現から来院までの経過、診察による関節炎の確認、血液検査・レントゲン所見などを総合的にみて、関節リウマチと診断します。健診でも測定されることのあるRFは、健康な人の5%程度は陽性となる検査で、年齢が上がるとともに陽性となる割合が増え、70歳以上の人の10%は陽性になると言われています。一方、RFや抗CCP抗体は関節リウマチ患者さまの8割程度で陽性となり、特に抗CCP抗体陽性だと関節リウマチの可能性がかなり高いですが、逆に言えば、2-3割の方はこれらの検査が陰性でもリウマチと診断されるということです。関節リウマチは症状出現からより早く診断し治療を開始したほうが、その後の経過がよいと報告されていますので、‘関節痛が続いているが、リウマチの反応はでていないようだ’という方も、ぜひ一度ご相談ください。
リウマチは関節のみならず、全身に様々な症状を起こすことがあります。皮膚の下に痛みを伴うしこり(リウマトイド結節)ができたり、間質性肺炎、胸膜炎や、血管炎によるしびれや皮膚潰瘍が生じたりすることもあります。また、全身の炎症の結果、骨粗鬆症や動脈硬化が進みやすくなります。
鑑別を要する他の疾患
関節の痛みや腫れは、関節リウマチ以外の様々な病気でもみられ、それらを鑑別する必要があります。以下、代表的なものを挙げました。
手指の変形性関節症
関節軟骨が摩耗し、骨の変形が起きるもので、変形が進む時期に腫れたり、強い痛みを感じたりします。40歳台以降の女性、手指をよく使う方になりやすい傾向があり、第1関節(へバーデン結節)、第2関節(ブシャール結節)、母指の付け根(母指CM関節症)に多く見られます。
リウマチ性多発筋痛症
50歳以上、特に65歳以上の高齢者に多い、首から両肩・二の腕、おしりから太ももにかけて痛くなる病気です。ある日突然痛みが出始め、比較的短期間に症状が進むのが特徴で、夜間痛みが強く寝返りを自分で打てない、腕が挙げられない、起き上がったり歩き始めたりするのが大変、といった症状が見られます。微熱や食欲低下などの全身の症状、朝のこわばりも伴います。比較的少量のステロイド薬の治療ですぐによくなりますが、長期間痛みで動けず筋力が衰えたり、炎症が続いて体が消耗したりしてしまう前に治療が始められるとよいですので、症状が当てはまる方は早めにご相談ください。
結晶誘発性関節炎
関節内に沈着した結晶が炎症を引き起こし、関節の腫れや痛みが生じます。高尿酸血症が続いた結果として尿酸ナトリウム結晶が関節内に沈着して起こる痛風や、ピロリン酸カルシウム結晶が沈着して起こる偽痛風(CPPD結晶沈着症)などがあります。一般に一つの関節(痛風では足の親指の付け根、偽痛風では首・肩・肘・手・膝など様々)が急に赤く腫れて痛くなり、数日の経過で自然に良くなっていくという急性の経過をとります。偽痛風では高熱がでることも多いです。一方、複数の関節が慢性的に腫れて痛い状態が続く、あたかもリウマチのような症状となるタイプもあります。
乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
皮膚の病気である乾癬に関節炎を合併することがあります。指趾の第一関節が腫れる、指や足趾が全体的に腫れる(指趾炎)、アキレス腱が踵に付くところや足の裏が痛い(付着部炎)、背部痛(脊椎炎)、などが特徴です。乾癬の皮膚症状が出る前から関節炎がでることもあり、手指関節炎は乾癬の爪の病変を伴いやすいと言われています。
脊椎関節炎
体の中心部の関節(脊椎や仙腸関節など)に主に炎症を起こす体軸性脊椎関節炎と、四肢の関節に主に炎症を起こす末梢性脊椎関節炎に分けられます。体軸性脊椎関節炎は、若い頃(45歳以下)から、夜間に痛みが強く、運動で改善する背部痛が続くというエピソードが特徴で、レントゲンで脊椎の靭帯骨化や仙腸関節の強直などが見られると強直性脊椎炎と診断されます。前述の乾癬性関節炎や、感染症罹患後に生じる反応性関節炎、炎症性腸疾患に伴った関節炎などは末梢性脊椎関節炎のタイプとなることが多く、下肢の少数の関節炎、指趾炎、付着部炎が特徴です。
膠原病
膠原病の多くは症状の1つとして、関節痛・関節炎を起こします。
治療について
リウマチ治療は、世界共通のリウマチ治療ガイドラインである、「目標達成に向けた治療 (Treat to Target (T2T))」という考えをもとに行います。これは、例えば糖尿病や高血圧症の治療が目標のHbA1cや血圧値に至るよう治療するように、関節リウマチも目標を定め、それにむけて定期的な病状の評価と治療内容の決定をしていくというものです。
リウマチの関節炎による痛みが続くことはつらく、痛みを取り除きたいというのが皆様の希望されるところと思います。適切な抗リウマチ薬を用いてリウマチの炎症を十分に抑えることが、痛みを抑えるだけでなく、関節の破壊を防ぎ、体を機能障害から守ることにつながります。
近年、以前からの内服の抗リウマチ薬に加え、生物学的製剤やJAK阻害薬などの強力な治療薬が多数使用できるようになり、病気の進行を抑えるだけでなく、生活のレベルを元の状態に近い段階まで改善することができるようになりました。関節リウマチの治療の目標は、‘寛解’を目指すことです。寛解とは、関節リウマチの活動性が認められない状態で、関節の腫れや痛みがない、関節破壊が進まない、生活に支障がないことをいいます。発症早期より治療をすること、定期的に病気の現在の状態(疾患活動性)を評価し炎症をなくすよう治療を調整することが、寛解に至る手段です。
以前からの内服薬には様々な種類(メトトレキサート、アザルフィジン、ケアラム、タクロリムスなど)があります。週1回服用するメトトレキサートは、高い効果が期待でき、使用できない理由がなければ使用するのが望ましいとされる薬剤です。ほとんどの薬は飲み始めてから効果が出るまでに1-3ヶ月かかり、副作用に注意しながら量を調整していきます。
生物学的製剤やJAK阻害薬は、強力に炎症を抑え、関節破壊が進まない、さらには壊れた関節を修復する効果も期待できる薬です。基本的には従来の抗リウマチ薬で効果が十分得られなかった際に使用しますが、関節の炎症がとても強く、日常生活に支障があったり、関節破壊がどんどん進んでしまう可能性が高かったりする例には、より早い段階でこれらの薬を使用することをお勧めすることがあります。生物学的製剤は注射や点滴の製剤で、注射は指導を受ければ自宅でご自身やご家族が打つことができます。一方、JAK阻害薬は1⽇1-2回の経⼝薬です。2021年3月現在、生物学的製剤 11種類(後発品含む)、JAK阻害薬 5種類が発売されており、各々の製剤の特徴と患者さまの合併症を含んだ病状・希望などを照らし合わせて、使用する薬を選択していくことになります。生物学的製剤やJAK阻害薬は強力な薬である半面、感染症に対する防御反応を抑えてしまうため、感染症にかかった際に重篤となってしまう危険性があります。また、結核やカビの感染を引き起こす可能性があり、薬を始める前には胸部CTや血液検査にてこれらの感染が問題ないことを評価します。JAK阻害薬は、帯状疱疹を引き起こしやすいことも知られています。感染症が重篤化しないために、発熱や咳などの感染症状がある場合や帯状疱疹の皮疹が出た場合は早期に受診いただくようお願いします。生物学的製剤もJAK阻害薬も、従来の内服薬に比べると薬剤費が高額ですし、述べたような注意点もありますので、導⼊までにはしっかりご説明し、皆さまにも勉強いただく時間を設けます。
治療によって寛解の状態となり、その状態が長く続いている場合は、薬を減量したり中止したりすることを検討します。半分くらいの方は薬を中止するとまた関節症状がぶり返してしまうと言われていますが、その場合も薬を再開すれば以前と同程度の効果が得られます。
薬物治療に、手術療法、リハビリテーションをあわせて、リウマチ治療の3本柱とされます。炎症が収まっても関節変形による痛みはとれません。そのような場合は手術療法が検討されます。また、適度な運動により関節の機能や筋力を維持すること、関節に負担をかけない日常生活動作を心がけることも大事です。
前述の‘Treat to Target(T2T)’の基本原則の一番初めには、‘患者さまとリウマチ医が共同して治療を決める’とあります。リウマチの病状について、診察や検査値から推察する医師の評価と、患者さまの自己評価は一致しないことも多く、不一致な部分は患者さまの感じている痛みや疲れやすさ、生活での不自由さが関係していると言われています。そのような点を私たちが把握できるよう、診療前に質問票に記載いただき、現在の病状・問題点を患者医師間で共有し、一緒になって治療にあたっていきたいと思います。
関節エコーについて
関節炎の診察は、実際に見たり触ったりして、色みや熱っぽさ、腫れや痛みを評価することが基本ですが、実のところ、わずかな腫れなどを的確に評価するのは難しいです。そんな時にエコー検査が役に立ちます。エコーでは、骨の表面や軟骨の変化、関節炎(関節液貯留、滑膜組織の肥厚、血流シグナル検出など)の有無や程度、関節内の結晶の有無、関節周囲の変化(腱の炎症や付着部炎など)を評価することができます。診断時、炎症の数値やリウマチの反応が陰性の場合に関節炎があるかを確認したり、結晶誘発性関節炎や乾癬性関節炎などと鑑別したりするのに利用します。また、治療後は、痛みが続いている関節がある場合や、寛解のようだが治療薬を減量・中止できるか判断に悩む場合など、エコーで炎症が残っているかどうかを確かめたりします。エコーは体に負担がかからず、その場で患者様自身も所見を確認できます。
当クリニックでは適宜エコーを活用した診療を行います。