エールホームクリニック

ドクターズコラム

帯状疱疹ワクチンと子宮頸がんワクチン

2024年12月25日

先日(2024年12月18日)、厚生労働省が、帯状疱疹を予防接種法のB類疾病とし、2025年4月1日より帯状疱疹ワクチンを定期接種化する方針を決めました。

帯状疱疹は、幼少期に罹患した水痘の原因である水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化し、神経支配領域に帯状に水疱ができるもので、皮疹が治った後にも帯状疱疹後神経痛が続くことがあります。帯状疱疹には50歳以上が罹患しやすく、70歳代が罹患者数のピークとなりますし、帯状疱疹後神経痛も70歳代以降で増加します。

帯状疱疹ワクチンは、生ワクチンと組換えワクチンの2種類があります。組換えワクチン(シングリックス筋注)は有効性が高く、2回の接種で、発症予防効果が接種1年で95%以上、その後経時的に有効性は低下するものの、10年後でも発症予防効果70%以上を維持していたと報告されています。生ワクチンは、発症予防効果はシングリックスに比べて劣ります(接種1年で30-60%台、以後減衰)が、1回接種で済み、費用負担も軽くなります(当院費用参照(1回あたり):生ワクチン 8800円、シングリックス 22000円)。

予防接種法では、A類疾病(集団予防を目的とするものや罹患した場合の病状が重篤であるもの、接種努力義務あり)とB類疾病(個人の発病や重症化予防を目的とするもの、接種努力義務なし)に分けられます。帯状疱疹は、インフルエンザや肺炎球菌感染症、新型コロナウイルス感染症と同じB類疾病となり、生ワクチン・不活化ワクチンのどちらを接種しても、65歳以上を対象にワクチン接種費用の一部が公費で負担されます。さらに5年間は経過措置として70, 75, 80, 85, 90, 95, 100歳も対象となる予定です。

子宮頸がん(HPV)ワクチンについての最新の情報(2024年11月28日)です。2025年3月末までがキャッチアップ接種期間とされていましたが、今夏以降の急な駆け込み接種増加のため、10月以降、HPVワクチンの供給が接種希望者の需要に追いつかない状況となっています。その状況を鑑み、2025年3月末までに接種を開始した人(HPVワクチンを1回以上接種した人)は、全3回の接種を公費で完了できるよう、厚生労働省で検討中です。

子宮頸がんは、日本で年間約1.1万人が罹患、約2900人が死亡する疾病で、罹患者は20歳代から増え始め、40歳代が最多と、若い人が罹患するがんと言えます。主に性交で感染するヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因となり、数年かけて前がん病変から浸潤がんへと進行していきます。

ワクチンでHPV感染を予防でき、2価・4価ワクチンは子宮頸がんの原因の約6-7割のウイルス型を、2023年4月から定期接種対象に追加された9価ワクチンは約8-9割のウイルス型の感染を予防します。最近日本より、1回以上のHPVワクチン接種で、子宮頸部高度異形成以上に対する発症予防効果が86%あったと、高い有効性が報告されています(Cancer Sci.2024)。

今年9月末までの初回接種率は、2010年-2012年度の緊急促進事業で接種を行った世代(25-30歳)以下は30-40%台とまだ低値です。日本では、HPVワクチン接種後に持続する痛みや運動障害を来した症例の報告により、長い間接種の積極的勧奨が控えられていましたが、2022年に積極的勧奨が再開され、再開後も接種後の体調不良を訴える人の割合は増えてはいないようです。小学6年から高校1年の定期接種対象者、1997年4月2日-2008年4月1日のキャッチアップ接種対象者ともに、子宮頸がんとその予防のワクチンについて、当事者意識を持ってよく考えてほしいと思います。また、20歳以降はあわせて定期的な子宮頸がん検診の受診も勧められます。

余談ですが、今、「はたらく細胞」の映画が公開されています。我が子も、自分の体の中で起こっていることへ思いを馳せるきっかけとなったようです。その様子をみて、私も遠い昔の小学生のときにNHKスペシャル「驚異の小宇宙 人体」に強烈なインパクトを受け、大学生でさらなる人体の免疫の精巧さを学んで感動したことを思い出しました。その後も免疫の分野は日進月歩で、新たな免疫細胞や免疫システムが発見されていますし、免疫に関わる分子を標的とした多くの治療薬が開発され、がんを含む様々な疾病の治療に使われ大きな治療効果が得られています。

この数年、新型コロナウイルス感染症の流行やそのワクチン接種を契機に、みなさんもワクチンについて否が応でも考えたのではないかと思います。その結果、ごく一部でワクチン全般を忌避する流れがでてしまったのは非常に残念です。ワクチンは、自身の免疫を働かせて感染予防を図る古くからの有用な手段です。今回の2つのワクチンの厚生労働省の対応発表をきっかけに、再度ワクチンについて考えていただけたらと思います。

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