エールホームクリニック

ドクターズコラム

疥癬の診断・治療と感染予防策

2023年10月10日

院内勉強会で疥癬についてお話しました。本コラムはその内容を覚書としてまとめたものです。一般的にはあまり馴染みのない疾患かもしれませんが、医療福祉関係のお仕事をされている方を対象に最低限知っておくべき内容としてまとめました。お役立ていただければ幸いです。

1.疥癬について

疥癬は、ダニの一種であるヒゼンダニがヒトの皮膚(角層内)に寄生することで発症する皮膚疾患です。ヒトの皮膚同士の直接接触もしくは寝具・衣類を介した間接接触で感染していきます。高齢者施設等で流行することがあります。疥癬には2つのタイプがあり、通常疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)に分類されます。

2.ヒゼンダニの特徴と生態

疥癬の原因となるヒゼンダニの正式名称は、ヒトヒゼンダニ (Sarcoptes scabiei var. hominis) です。外観は、白褐色で8本足。体長は雌成虫で0.4mm×0.3mmの大きさで肉眼ではみえません。

ヒトの皮膚にのみ寄生するため、環境中にはおらず他の動物上では生息できないとされています。乾燥に弱く皮膚から離れると2~3時間程度で死滅してしまうためです。ヒゼンダニの寿命は4〜6週間で、その間に1日2〜3個の卵を産みます。虫卵は3~4日で羽化し、幼虫、若虫、成虫へと成長し約14日で次の卵を産むというライフサイクルです。


【図】ヒゼンダニの雌成虫、雄成虫、虫卵の顕微鏡像

3.通常疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の特徴

疥癬には通常疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の2つの病型があります。

なお、角化型疥癬は、1848年にはじめてこの疾患を報告したのがノルウェーの学者ダニエル・コルネリウス・ダニエルセンらであったため、長らくノルウェー疥癬とも呼ばれていました。しかし、疫学的にノルウェーと関連があるわけではないため、近年では過角化型疥癬と呼ぶことが一般的となっています。
通常疥癬と角化型疥癬の特徴を表にまとめました。この2つのタイプの最も重要な違いは、感染力です。通常疥癬は、人体に寄生するヒゼンダニが数十匹以下と比較的少数であり、長時間の直接接触がなければ原則として感染しません。一方、角化型疥癬では100万〜200万匹と桁違いに多く、より短時間の接触で容易に感染します。さらに、患者さんから剥がれ落ちた鱗屑(フケ)や痂皮(かさぶた)なども感染源となります。

通常疥癬の症状

通常疥癬の症状は、夜間の強いそう痒(かゆみ)を伴う紅色丘疹(ぶつぶつ)・結節(ごつごつ)です。初めて感染する場合、接触してから約1ヶ月程度の潜伏期間を経て症状が出始めます。これは、通常疥癬の症状そのものは、ヒゼンダニによるものではなく、脱皮した殻や排泄物によって感作されることにより生じたアレルギー反応であるためです。通常疥癬は、腋窩、乳房周囲、腹部、陰部・臀部、手関節部、手足、指間に好発します。

角化型疥癬の症状

角化型疥癬では、強い角化を伴う紅斑が頭部・顔面を含む全身にみられます。何といっても非常に感染力が強いのが特徴で、潜伏期間も4〜5日と短いです。意外なことに必ずしも強いかゆみがない場合もあります。

4.疥癬の診断

疥癬の診断は、接触機会、治療歴を含めた問診、臨床症状や顕微鏡検査を総合して行います。流行状況などの情報が不十分な場合や、感染の初期で症状がはっきりしなかったり、検査でも陰性となる場合があり、皮膚科医でも診断に難渋することがあります。

5.疥癬の治療

疥癬と診断された場合、ストロメクトール内服もしくはスミスリンローション外用で治療を行います。角化型疥癬の場合は、これら2剤を組み合わせて治療することもあります。

1) ストロメクトール(イベルメクチン)内服
内服は1回、空腹時に水で服用します。高脂肪食でストロメクトールの血中濃度が上昇する可能性があるためです。また、成虫にのみ有効なため、虫卵が孵化する1~2週後に2回目を内服します。体重によって内服量を調整します。

2)スミスリン(フェノトリン)ローション外用
首から足の裏までの皮膚に塗布します。症状のない部分にも塗ることが重要です。塗布後12時間以上経過後にシャワー等で洗い流し、必要に応じて1週間毎に外用します。

3)オイラックス(クロタミトン)クリーム外用

上のいずれかと併用することが多い治療です。保険適用はありませんが、審査上容認されています。

この他、そう痒に対しては抗アレルギー薬を使用することがあります。

6.疥癬の感染予防策

疥癬の感染予防策は、通常疥癬と角化型疥癬で対応が大きくかわります。

基本となる予防策は、通常疥癬では標準予防策、感染力の強い角化型疥癬は接触予防策です。

標準予防策では、すべての患者さんおよび周囲の環境に接触する前後には手指衛生を行い、血液・体液・粘膜などに曝露するおそれのあるときはディスポーザル手袋などの個人防護具を用います。つまり通常疥癬では、標準予防策の原則に則って普段通りの対応をすれば十分だということです。

接触予防策では、標準予防策に加え、患者さんの室内に入る際に手袋およびガウン(ビニールエプロン)の着用が必要となります。また原則として個室管理を行います。このように感染力の強い角化型疥癬では特別な対応が必要となります。

まとめ

疥癬は、ヒゼンダニがヒトの皮膚(角層内)に寄生することで発症する皮膚疾患です。

ヒトの皮膚同士の直接接触、または寝具・衣類を介した間接接触で感染し、高齢者施設などで流行することがあります。

感染予防策の基本となる考え方は、通常疥癬では標準予防策、感染力の強い角化型疥癬は、接触予防策の徹底が必要となります。

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