いつでもどこでも初心を貫く
いつも、ありがとうございます。
日本気象協会によると、2025年は寒冬でスタートするものの春の訪れが早く、夏は猛暑傾向が予想され、メリハリのある年となる見込みだそうです。長岡はこれから厳しい寒さを迎えますが、この冬を乗り越えてこそ、やがて訪れる春のありがたみを痛感するものです。この長岡の厳しい気候が河井継之助や山本五十六らに代表される偉大な先人たちを育てたとも言われますが、心の温度は下げることなくポジティブにこの冬を楽しみたいと思います。
地域医療の崩壊、いよいよ待ったなし?
医療と経営の分離と融合。融合に至るにはそれなりに時間を要しますが、私は昔からこの重要性を唱えてきました。前世紀の医療業界は、医療従事者が医療法人の経営者も兼ねていました。かみ砕いた言い方をすると、国家資格を有する医療従事者である医師が、医療法人の経営者である院長であり理事長でもあったということです。医療法人を経営して地域に貢献すると共に、医療報酬で健全な財務体質を維持できるのであれば、それは素晴らしいことだと思います。
でも、時代が移り変わり、そんな素晴らしい世界も、これまでのやり方では維持できなくなろうとしています。2024年の医療機関(病院、診療所、歯科医院)の倒産は64件で、過去最高を記録したという記事が先日ニュースとして出ました。休廃業や解散も722件でこちらも過去最多を更新したとのことです。既存の仕組みのままでは、私が唱えてきた地域医療の崩壊がいよいよ待ったなしの状況になろうとしているかもしれません。
医療法人経営の難易度は格段に上昇
医療法人経営を取り巻く現状を鑑みると、医療従事者の働き方改革が進み、医療DXの推進でIT投資の必要があります。医療法人の運営コストは上昇するばかりです。売上が上がらないのにコストばかりが嵩む。こんな状態は、経営のスペシャリストである一般企業の経営者でも苦労する局面。経営についての知識を持たない医師が、医師としての業務に従事する傍らで、医療法人を適切に経営するのは、困難になってきています。
経営に付き物の「資金繰り」の話でも、その昔、日本経済が絶好調だった頃は、新しい医療法人を設立するのに必要な資金は、銀行がいつでも貸してくれました。医療機関というだけで、一定の与信がありました。現代では、医療法人の経営計画を立案してそれを金融機関に提示し、医療法人の経営で借入金の返済が可能な目途を示す必要があります。そうなってくると、一般企業の経営と同じで、予算や経費、キャッシュフローの管理を行って、しっかりと利益を確保しなければなりません。医師・医療という与信で資金調達し、診療報酬で返済する昔の医療法人経営と比べ、その難易度は格段に上がっています。医師が診療・治療の片手間で医療法人を経営するのは、難しくなっているのが現実なのです。
地域住民にとって「医療」はサービス業
医療は地域で暮らす住民にとって、行政と同じような「サービス」です。つまり「医療」はサービス業ともいえるのです。サービス業は、お客様から選ばれるために、様々な創意工夫をしなければなりません。
だから、医療と経営を分離して、それぞれのスペシャリストが自分の能力を発揮することで、サービス業でもある医療法人の経営が上手くいくと、私は考えています。医師が患者さんや地域住民から尊敬され、医療法人が地域のインフラとして機能できる世界が維持できる。人口増加していた頃は、ビジネスの世界でいうところの“集客”をしなくても、患者さんは病院や診療所に来ました。けれども、人口減少が続く日本、中でもとりわけ地方では、医療法人を維持するには、これまでになかった努力や工夫が必要とされています。医療と経営、それぞれのスペシャリストがタッグを組むこと、このことはすなわち医療と経営の分離と融合にほかなりませんが、それによって医療業界、あるいは地方の医療サービスがよりよいものになっていくと確信しています。
医療業界に蔓延する「ごっつぁん体質」
医療業界は、旧い体質の代表格ともいわれています。医療界はいろんな規制で守られた既得権益業界の代表とされています。免許制と保健医療制度で身分と報酬は守られてきました。けれども、時代の移り変わりが激しい現代において、そんな恵まれた環境がいつまで続くか疑わしくなってきました。
先程述べた経済的な要因だけでなく、社会的な要因もあります。例えば、ヒエラルキー構造の組織や権力体制が、コンプライアンスの観点から、次々と崩れ去っています。近年、「角界」と呼ばれる相撲業界の体質が社会から大きな批判を浴びて、変革を余儀なくされました。医療業界も長らく特例を認められてきましたが、医療業界の体質に問題があるのは、もはや国民みんなが知る事態となっており、いつ改革を求められても不思議ではありません。
私は政府から特例を認められ、既得権益に守られる業界を「ごっつぁん業界」と称しています。他の業界では当たり前とされている努力をしなくても、天からお金が降ってくる。日本にはそんな「ごっつぁん業界」がたくさんありましたが、令和の世の中になって、それが一つひとつ覆されているように思えてなりません。最近ではテレビ業界に大激震が走っていますが、それも「ごっつぁん業界」の倒壊の一部かもしれません。
そうならないために、これからの医療において重要なことは内外にしっかりとリレーションを構築するということです。特に協力・応援してくれる人脈を外部に築くことは、視野を広げ健全な組織運営をするうえで重要な示唆を与えてくれます。いわゆる「鳥の目」を養う1つでもあります。医療者だけの限られたリレーションだけでなく、オープンに外部と協力関係を築いていくことで必ず大きな気付きを得ることができるはずです。
創業5期目は私たちにとって大切な年
メディカルビットバレーとエールホームクリニックは、創業5期目に入っています。チーム体制での医療提供と複数の診療科を一か所で受診できる利用しやすいシステムの医療機関を目指して、努力を重ねてきました。
5期目の今期は私たちにとって大切な年になると考えています。5期目というのは会社経営においても危機を迎えやすいとされています。事業が5年間続くというのは、成功だと考えられます。ただ、それを持続するのが、成功する以上に大変なのです。ある程度の成果が出たことで気が緩み、初心を忘れて奢る気持ちが鎌首をもたげてしまうのです。
メディカルビットバレーにとって大切な今年。難しいと同時におもしろい一年になりそうな予感を抱いています。10年、20年先を見据え、常に初心を忘れずに楽しくポジティブな成長を続けていきます。
澁谷 裕之(しぶや ひろゆき)
医療法人メディカルビットバレー 理事長
新潟県長岡市生まれ。
弘前大学医学部卒業。
2020年4月に医療法人メディカルビットバレーを設立。
家庭医療専門医、プライマリケア認定医。
好きな言葉は「即断即決即実行」、「適材適所」。