エールホームクリニック

ドクターズコラム

武田社ワクチン(ノババックス)接種センターに指定されて

2022年5月20日

本年4月19日、ノババックス社製の新型コロナワクチンが薬事承認され、5月末より全国で接種が開始される予定です。国内4製品目の新型コロナワクチンです。
ノババックス社製ワクチンは、①武田社が国内工場で製造・流通を行うこと、②他ワクチンで長年の使用実績がある組換え蛋白ワクチンであること、③発熱などの全身的な副反応が軽い可能性があることが特徴です。

今までの3製品(ファイザー社製、モデルナ社製、アストラゼネカ社製)は、ウイルスを構成する蛋白(ウイルスがヒトへ感染する際に使用するスパイク蛋白)の遺伝情報をそれぞれmRNA(ファイザー社、モデルナ社)やウイルスベクター(アストラゼネカ社)といった形で投与し、その遺伝情報をもとにヒトの体内でウイルスの蛋白質を作り、それに対して免疫を獲得するというものでした。このようなワクチンは近年開発が進められてきたもので、新型コロナワクチンではじめて実用化されました。

一方、武田社(ノババックス)ワクチン(商品名:ヌバキソビッド)は、組換え蛋白ワクチンです。組換え蛋白ワクチンは、ウイルスを構成する蛋白の一部をヒトに投与し、それに対する免疫を誘導します。B型肝炎ウイルスやヒトパピローマウイルスへのワクチン、帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス)なども組換え蛋白ワクチンであり、この種のワクチンの安全性や有効性に関するデータは多く、豊富な使用実績があります。
一般に、組換え蛋白ワクチンはウイルスそのものを使用しないので、ワクチンでの感染や発症はなく安全性が高い反面、免疫誘導効果は低めであり、アジュバント(免疫を活性化する物質)を一緒に投与したり、複数回接種したりする必要があります。また、有効な蛋白を選別するために開発に比較的時間がかかります。武田社(ノババックス)ワクチンは、昆虫細胞を用いて作ったウイルスのスパイク蛋白をより免疫を高める粒子の形にし、Matrix-Mという独自のアジュバントと一緒に投与します。接種方法については、他の新型コロナワクチンと同様に筋肉内接種で、初回免疫として1・2回目を20日の間隔をおいて接種し、追加免疫として1・2回目接種の終了後6月以上の間隔をおいて1回接種することとなっています。

ノババックスワクチンの有効性や安全性データは、海外で行われた2つの第3相臨床試験(①英国、2020年9月-11月、約1.4万人対象、②米国・メキシコ、2020年12月-2021年2月、約3万人対象)から知ることができます(N Engl J Med 2021; 385:1172、N Engl J Med 2022; 386:531)。両者を併せた結果は、発症予防効果 89.7-90.4%、中等症以上への重症化予防効果 100%、変異株(時期的にアルファ株が主体)の発症予防効果 86.3-92.6%と、mRNAワクチンの当初の発症予防効果95%という驚異的なデータには劣るものの高い有効性が示されました。一方、接種後7日間の副反応については、注射部位局所の圧痛や疼痛を6-7割に認め、全身症状として5割くらいの頻度で疲労や筋肉痛、頭痛、倦怠感が報告されましたが、発熱は10%未満と少なく、いずれの症状も生活に支障のでるような重いものは5%未満でした。大部分の症状は1-3日でおさまり、全体的にmRNAワクチンに比べ副反応は軽い傾向が見られました。mRNAワクチンの2回目接種後の発熱は、ファイザー社で4割弱、モデルナ社で7割超に見られたと報告されており(厚生労働省の接種後の健康状況調査)、ノババックスワクチンは熱が出にくいのが特徴と言えます。さらに、試験の観察期間中、英国で1名が心筋炎を発症した以外は、他のワクチンで懸念される重篤な副反応であるアナフィラキシー、心膜炎、血栓症は報告されませんでした。

ただ、今述べたことは臨床試験の限られたデータです。試験の観察期間は中央値3ヶ月と短く、より長期的な効果や安全性については不明です。また、現在のノババックスワクチンは当初の新型コロナウイルスのスパイク蛋白をターゲットに設計されたワクチンです。変異を重ねたウイルスに対しての有効性は他と同様、減弱していることが予想されますが、オミクロン株以降の変異株への有効性に関するデータはまだ示されていません。世界的な使用経験がまだ少なく、米国では、ノババックス社が本年1月末にFDAへ使用許可申請をしましたが、理由は不明ながらFDAは現在まで承認していません。有効性、安全性ともに今後使用経験を積み重ねる中で確かめられていくことになります。このようなことから、初回免疫のワクチンとして、現時点では、武田社(ノババックス)ワクチンは実績の多いmRNAワクチンに匹敵して台頭しうる状況にはなさそうです。

追加免疫に関して、ファイザー社またはアストラゼネカ社のワクチンで初回免疫後、各社ワクチンの追加接種での免疫を誘導する力や安全性を評価した英国の試験があります(Lancet. 2021;398:2258.)。どのワクチンを追加接種に用いても、安全性で懸念されるものはありませんでした。ノババックスワクチンで追加免疫の交互接種をすると、デルタ株に対する中和抗体が対照群(髄膜球菌ワクチンを追加接種)に比べ、4.94倍(初回免疫がファイザー社)、6.25倍(初回免疫がアストラゼネカ社)と有意に上昇していました。この結果も踏まえ、武田社(ノババックス)ワクチンは、18歳以上の接種希望者を対象に、1・2回目および3回目接種に用いられ、3回目接種は初回免疫で他ワクチンを接種した人の交互接種も可能とされました。ただ、先に述べた試験において、追加免疫の抗体誘導効果は、初回免疫のワクチン種によらず、モデルナ>ファイザー>ノババックスであったことに留意が必要です。そのため、世界では追加接種にmRNAワクチンを推奨している国が多いです。

以上の初回接種・追加接種のデータから、今の段階で、武田社(ノババックス)ワクチンは第一選択のワクチンとはならないと考えます。一方、武田社(ノババックス)ワクチンはポリエチレングリコールを含まず、アレルギー反応のためにmRNAワクチンが接種できない人も安全に打てる可能性があります。また、何らかの事情で初回免疫にアストラゼネカ社製を接種した人の追加接種、1・2回目のmRNAワクチンで高熱が出るなど副反応がつらく、接種をためらっている人の追加接種がよい対象になるのではないかと思います。

ワクチンの選択肢が増えるのはよいことです。どの分野の治療薬でもそうですが、新たな薬が出るとその後に既存薬との比較など様々なデータが得られ、徐々に各製剤の特徴を踏まえた使い分けや治療の中での位置づけが確立されていきます。
武田社(ノババックス)ワクチンは通常の2-8度の冷蔵保存でよく取り扱いが楽で、汎用性があります。また、武田社がノババックス社から技術移管を受けて国内工場で製造し流通を行うので、他国に頼らない安定した供給が期待されるという利点もあります。

“副反応の強いワクチンは打ちたくない”という気持ちは誰にもあり、今後長期的に見たときに、初期免疫などで一定の免疫を持つ人へは、武田社(ノババックス)ワクチンのような重い副反応の少ない組換え蛋白ワクチンの追加接種で十分な効果が得られるとなればよいと期待しますが、変異の速い新型コロナウイルスに製品化に時間のかかる組換え蛋白ワクチンが対応していくのは難しいでしょうか?
今後もワクチンが必要なのか、追加接種の方法はどうすべきか、どのワクチンがよいのかなど、不明瞭なことばかりですが、現在進行中の問題であり、これからも勉強し考えていきたいと思います。

当クリニックでは、5月18日現在、計約12万回のワクチン接種をおこなってきました。その中には、新潟県のアストラゼネカワクチンセンター、大規模接種センター上越、加速化センター中越や、見附市の集団接種といった、自治体との取り組みも含まれます。
今回、当クリニックは新潟県の武田社ワクチン(ノババックス)接種センターに指定されました。
これまでの接種実績が県から評価されて依頼されたと考えます。その信頼に応えるよう、武田社(ノババックス)ワクチンに関する基礎的な知識、取り扱いや接種運用について、全スタッフに周知し臨みます。

【こちらもご覧ください】
ドクターズコラム特別編『武田社ワクチン(ノババックス)接種後アンケート調査中間解析』

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